ささ読み小説 第16弾 「大丈夫」

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こんにちは
シンディーです。

ささっと読める小説「ささ読み小説」第16弾です。

【大丈夫】

「大丈夫よ。」
僕の母はいつもそう言った。
「大丈夫よ。」
僕の母は僕が試験前は必ずそう言った。
「大丈夫よ。」
僕の母は僕が就職活動をしている時にそう言った。
「大丈夫よ。」
僕の母は病院のベッドでもそう言った。
「大丈夫よ。」
僕の母は死ぬ前にそう言った。
僕は母が大丈夫と言うたびに
「何を証拠にそう言うんだよ。」
と母に怒鳴った。それでも母は
「大丈夫よ。」
ただそう言うだけだった。

母がこの口癖を言うようになったのは、父が交通事故で亡くなってからだった。母はそれから僕の学費や生活費などを稼ぐために夜遅くまで働き続けた。
そして僕が25になった年に、母は病気が見つかって、それから2年後に亡くなった。

僕はずっと母が「大丈夫」と言ったのは母自身が諦めないように、母自身が父のいない苦しみや悲しみから耐えるために自分に言い聞かせているものだと思った。
そう言わないと精神的に崩れてしまう。そう思っていたんだと思った。母が大変だったのは一緒に住んでいたので明らかだった。
顔にはシワが増え、前までは化粧などをしていたのがしなくなった。白髪も増えた。
僕はそんな母に感謝をしていたが、口には出せずにいた。貧乏な生活もそうだし、それが原因で学校でバカにされたり、ずっと苦しい思いをしていたからだ。

「何でこんな人生を歩かないといけないんだ。」

僕はそう何度も心の中でつぶやいた。もちろんそんなことを言っても僕の状況が変わることなんてなかった。母は毎日休まず働いていた。それなのに朝ごはん、弁当、夜ご飯はちゃんと用意してくれた。そんな母の想いを裏切って、弁当を食べなかったり、ご飯を食べるのを拒否したこともあった。
それでも母は食事を作り続けた。自分勝手な僕の振る舞いや発言に対しても母は投げ出すことはしなかった。

「大丈夫よ。」

母はとにかくこの言葉しか言わなかった。
母が亡くなってから遺品を整理していると、3冊の日記が出てきた。そこには母の生きてきた日々が綴られていた。
たまたま開いたページを読んだ。

5月7日、ユウトは学校でイジメられているのか、制服が汚れていたり、教科書やノートに落書きが書いてあった。私のせいだろう。そこで今日は学校の先生にユウトの様子について聞きに学校に行った。担任の先生は特に何も変わった様子がないと言うだけで、ユウトのことをちゃんと見ていないことが分かった。
私は気持ちが抑えられず、担任の先生を怒鳴りつけた。ユウトごめんなさい。お母さんが先生に怒鳴ったことがあなたに迷惑をかけないと良いけど。そもそもの原因はこんな生活をさせている私だ。ユウトを苦しめているのは私。
でも大丈夫。お母さんが必ずユウトを守るから。大丈夫。ユウトだけは必ず守るから。

母の優しさと自分の情けなさに涙が出た。
母の「大丈夫」は決して自分自身が苦しみから耐えるためではなかった。母の「大丈夫」は僕を守るためのものだった。
全ての日付に「大丈夫」と書いてあった。全て、何があっても母が僕を守るという内容だった。

やり場のない感情を僕は抑えきれずに大声で泣いた。

それから僕は、自分の家族にはいつも「大丈夫」と言うようになった。急に僕がそう言うもんだから、家族は抵抗していたが、僕は何度でも、必ず言おうと思った。

「大丈夫。」(家族は僕が守るから)

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